ぬが早乙女主水之介かッ」
 不意に、錆のある太い声で罵りながら、ぬッとその奥から姿を見せたのは道場主釜淵番五郎です。
「ほほう、さすがはそちじゃ。身共を早乙女主水之介と看破ったはなかなか天晴れぞ。名が分ったとあらば用向きも改まって申すに及ぶまい。あの男を見れば万事分る筈じゃ。――権次! 権次! 峠なしの権次!」
「めえります! めえります! 只今めえります! ――やい! ざまアみろい! 一番手は京弥様。二ノ陣は傷の御前、後詰《ごづめ》は峠なしの権次と、陣立てをこしれえてから、乗り込んで来たんだ。よもや、おいらの面《つら》を忘れやしめえ! 用はこの面を見りゃ分るんだ。よく見て返答しろい!」
「そうか! うぬが御先棒か! それで何もかも容子が読めたわ。あの大工がほしいと言うのか。ようし。ではこちらも泡を吹かしてやろうわッ。――殿! 殿!」
 さぞかし驚くだろうと思われたのに、番五郎の方でも用意の献立てが出来ていたと見えて、にったりと嘲笑うと、不意に奥の座敷へ対《むか》って呼び立てました。
「殿! 殿! やっぱり察しの通りでござりました。後押しの奴も御目鑑《おめがね》通り早乙女主水之介でござ
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