りまするぞ。御早く御出まし下さりませい」
「よし、参る」
静かに応じて騒ぐ色もなく悠然とそこへ姿を見せたのは誰でもない。これぞ問題の人竜造寺長門守です。しかも長門、犯信ゆえに栄誉ある大阪城代の職を過《あやま》ったとは言え、さすがに名家の末裔《まつえい》、横紙破りの問題起した風雲児だけのものがあって、態度、おちつき、貫禄共に天晴れでした。恐らくは真向浴《まっこうあ》びせにすさまじい叱咤《しった》の声をでも浴びせかけるだろうと思われたのに、主水之介の姿を見眺めるや大きく先ず莞爾《かんじ》として打ち笑ったものです。
引きとって退屈男また莞爾たり!
そうしてあとがたまらなかった。片やは横紙破りの風雲児、片やはまた江戸名物の退屈男と、両々劣らぬ大立者同士のその応対が実にたまらなかったのです。
「ウフフ。そちが早乙女主水之介か」
「わッはは。お身が竜造寺どのでござったか」
「珍しい対面よ喃《のう》」
「いかにも」
「対手がそなたならば早いがよい。用は何じゃ」
「御身の謎を解きにじゃ」
「面白い! 長門の返答はこれじゃ。受けてみい!」
やにわにたぐりとってさッと繰り出したのは長槍でした。しか
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