ところであったわい。もうよかろう。ゆるゆるそちらで見物せい。門太!」
「なにッ」
「名前を存じおるゆえぎょッと致したようじゃな。わッはは。左様に慄えずともよい。先ずとっくりとこの眉間傷をみい。大阪者では知るまいが、この春京まで参ったゆえ、噂位にはきいた筈じゃ。如何《どう》ぞ? どんな気持が致すぞ? 剥がして飲まばオコリの妙薬、これ一つあらば江戸八百八町どこへ参るにも提灯の要らぬという傷じゃ。貴公もこれが御入用かな」
「能書き言うなッ。うぬも道場荒しの仲間かッ」
「左様、ちとこの道場に用があるのでな、ぜびにも暫く頂戴せねばならぬのじゃ。こういうことは早い方がよい。あっさり眠らしてつかわすぞ」
京弥の手から鉄扇受け取って、殆んど無造作のごとくにずいずいと穂先の下をくぐりながらつけ入ると、ダッとひと突き、本当にあっさりと言葉の通りでした。見眺めて門人達が一斉に気色《けしき》ばみながら殺到しようとしたのを、
「京弥! 始末せい。用のあるのは釜淵番五郎じゃ。奥にでもおるのであろう。あとから参れよ」
ずかずかと襲い入ろうとしたとき、
「来るには及ばぬ。用とあらば出て行くわッ。何しに参った! う
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