行くぞッ」
突如、門人溜りの中から、気合の利いた怒声が爆発したかと思われるや一緒に、兵助が叩き落された真槍素早く拾い取って、さッと不意に、横から襲いかかったのは師範代|等々力門太《とどろきもんた》でした。しかも、これが出来るのです。実に意外なほどにも冴えているのです。加うるに、京弥はすでに五人を倒したあとでした。疲労と不意の襲撃に立ち直るひまもなく、あわやプツリと太股へ不覚の穂先を見舞われたかと見えた刹那! ――一瞬早く武者窓の外から、咄嗟の目つぶしの小石つぶてが、矢玉のように飛来して門太の顔を襲いました。
「よッ。表に怪しき者がいるぞッ! 捕えい! 捕えい! 引ッ捕えい!」
下知の声と共に総立ちとなりながら、門人一統が押《お》ッ取《と》り刀で駈け出そうとしたところへ、三日月傷冴えやかな青白い面にあふれるばかりな微笑を湛えながら、もろ手を悠然と懐中にして、のっしと這入って来たのは退屈男です。
「揃うて出迎い御苦労じゃ。ウッフフ。揉み合って参らば頭打ち致そうぞ。――京弥、危ないところであった喃」
「はッ。少しばかり――」
「ひと足目つぶしが遅れて怪我をさせたら、菊めに兄弟の縁切られる
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