夫でごぜえましょうか。野郎なかなか出来そうですぜ。もしかの事があったらお嬢様に申し訳がねえんです。そろそろお出ましになったらどうでごぜえます」
「ウフフ。左様のう――」
 だが退屈男は、別段に騒ぐ色もなく静かに打ち笑って見守ったままでした。いや、それ以上に落付き払っていたものは当の京弥です。さぞかしおどろくかと思いのほかに、ちらりと幽《かす》かに笑窪《えくぼ》を見せながら、ずいとひと足うしろに退ると、不敵なことに得物は同じ鉄扇なのでした。しかも、声がまたたまらなく落付いているのです。
「少しお出来じゃな。胴、小手、面、お望みのところに参る。いずれが御所望じゃ」
 言いつつ、穂先五寸のあたりへぴたりと鉄扇をつけたままで、一呼一吸、さながらそこに咲き出た美しい花のごとくに突ッ立ちながら、じいッと気合を計っていたかと見えたが、刹那!
「小手へ参りまするぞッ」
 涼しく凛とした声が散ったかと思うや、早かった。ガラリ、兵助は手にせる真槍を叩きおとされて、片手突きの当て身に脾腹を襲われながら、すでにそこへのけぞっていたところでした。――しかし、殆んどそれと同時です。
「小わッぱ、やったなッ。代りが
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