菊めが角《つの》を出そうわ。――みい! みい! 言ううちに三人目もまたあっさり芋虫にしたようじゃ。三匹並んで長くなっておるところは、どうみても一山百文口よ喃」
 いかさまその言葉のごとく、三人目もすでに脾腹の一撃に出会って、手もなくそこへのけぞったところでした。四人目も元より一撃。疲労の色も見せずに、綽々《しゃくしゃく》として京弥が五人目を促そうとしたとき、にたりと残忍そうに嘲笑って、矢庭にすっくと立ち現れたのは二の弟子の吉田兵助です。しかも彼、一二と指を屈せられる門人だけあって、目の利いていたのはさすがでした。
「味な稚児ッ小僧じゃ。貴様道場荒しじゃなッ。拙者が釜淵流の奥義を見せてやる。得物はこれじゃ。来いッ」
 ぴいんと胆《きも》の髄までひびき渡るような練り鍛えられた叫びと共に、さッと繰り出したのは、奇怪! 穂先もドキドキと磨ぎ澄まされた真槍なのです。――俄然、道場内は時ならぬ殺気に覆い尽されました。並居る門人達の色めき立ったのは言うまでもないこと、表の武者窓下に佇《たたず》み忍んでいた峠なしの権次も思わずあッと目を瞠《みは》って、主水之介の袖を慌てて引きながら囁きました。
「大丈
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