京弥の声が飛んだとき、すでに対手はタンポ槍をにぎりしめたまま、急所の脾腹《ひばら》に当て身の一撃を見舞われて、ドタリ地ひびき立てながらそこに悶絶《もんぜつ》したあとでした。
「稚児の剣法、味をやるなッ。よしッ。俺が行くッ」
 怒って入れ替りながら挑みかかったのは、先程取次に出て来た名もない門人でした。
「ちと荒ッぽいぞッ。どうじゃッ。小わっぱ、これでもかッ」
 力まかせに繰り出して来たのを、軽く払って同じ脾腹にダッと一撃!
「いかがでござる。お次はどなたじゃ」
 涼しい声で言いながら、莞爾《かんじ》として三人目の稽古台を促しました。
「いい男振りだ。おどろきましたね」
 武者窓の外からそれを見眺めて、悉く舌を巻きながら感に絶えたように主水之介に囁いたのは、峠なしの権次です。
「あれ程お出来とは存じませんでしたよ。まるで赤児の手をねじるようなものじゃござんせんか。いい男振りだ。実にいい男前だね。前髪がふっさり揺れて、ぞッと身のうちが熱くなるようですよ」
「ウフフ。そちも惚れたか」
「娘があったら、無理矢理お小間使いにでも差しあげてえ位ですよ」
「ところがもう先約ずみで喃。お気の毒じゃが妹
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