え召されよ!」
 見くびりながら取り合おうともしないで引返そうとしたのを、凛と一語鋭く呼びとめると、さすがに京弥、傷の早乙女主水之介がこれならばと見込んで、愛妹菊路に与えただけのものはあるつぶ選りの美少年です。
「武芸十八般いずれのうちにも、小姓ならば立会い無用との流儀はござらぬ筈じゃ。是非にも一手所望でござる。早々にお取次ぎ召されい」
「なに! 黄ろい奴が黄ろいことをほざいたな。強《た》って望みとあらば御対手せぬでもないが、当流釜淵流の槍術はちと手きびしゅうござるぞ。それにても大事ござらぬか」
「元より覚悟の前でござる。手前の振袖小太刀も手強《てごわ》いが自慢、文句はあとでよい筈じゃ。御取次ぎ召さりませい」
「ぬかしたな。ようし。案内しょうぞ。参らッしゃい。――各々、みい! みい! 世の中にはずい分とのぼせ性の奴がいる者じゃ。この前髪者《まえがみもの》が一手他流試合を所望じゃとよう。丁度よい折柄ゆえ、酒の肴にあしらってやったらどんなものじゃ」
「面白い。武芸自慢の螢小姓やも知れぬ。あとあと役に立たぬよう、股のあたりへ一本、変ったタンポ槍を見舞ってやるのも一興じゃ。杉山、杉山! 貴公稚
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