て身、遠当て、程よく腕馴らしやってみい」
「心得ました。久方ぶりでの道場荒し、では思いのままに門人共を稽古台に致しまするでござります」
ほんのりと両頬に上気させて、莞爾《かんじ》と美しく笑みを残すと、
「頼もう。頼もう。物申す」
大振袖に揚心流小太刀の名手の恐るべき腕前をかくして、殊のほか白ばくれながら訪ないました。
「槍術指南の表看板只今通りすがりに御見かけ申して推参仕った。夜中御大儀ながら是非にも釜淵先生に一手御立会い所望でござる。御取次ぎ下さりませい」
「何じゃと、何じゃと、他流試合御所望でござるとな。このような夜ふけに参られたとはよくよく武道御熱心の御仁と見えますな。只今御取次ぎ仕る」
のっしのっしとやって来て、ひょいと見眺めるや対手は、この上もなく意外だったに違いない。そこに佇《たたず》んでいたのは紅顔十八歳、花も恥じらわしげな小姓だったのです。当然のごとく取次ぎの男は嘲笑ってあびせかけました。
「わはは。何じゃい何じゃい。今愉快の最中じゃ。当道場には稚児《ちご》の剣法のお対手仕る酔狂者はいち人もござらぬわ。御門《おかど》違いじゃ。二三年経ってから参らッしゃい」
「お控
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