。――いえ、あいつらはどちらも釜淵の野郎じゃござんせぬ。恐らく番五郎めは奥で妾と一緒に暖《あった》まってでもいるんでしょう。あの右のガッチリした奴は師範代の等々力門太《とどろきもんた》とかいう奴で、左のギロリとした野郎はたしかに一番弟子の吉田兵助とかいう奴でごぜえます」
「ほほう、左様か。面倒な奴は先ず二人じゃな。どれどれ、事のついでにどの位出来そうか星をつけておいてつかわそう。――なるほど喃。右は眼の配り、体の構え先ず先ず京弥と五分太刀どころかな。左の吉田兵助とやらは少し落ちるようじゃ。では、一幕書いてやろうわい、京弥」
「はッ」
「もそっと耳を寄せい」
「何でござります?」
「そのように近づけいでもいい。のう、よいか。事の第一はこれなる化物道場のカラクリ暴《あば》き出すが肝腎じゃ。それがためには抜いてもならぬ。斬ってもならぬ。手足まといな門人共を順々に先ず眠らしておいて、ゆるゆる秘密探り出さねばならぬゆえ、そのところ充分に心得てな、その腕ならばそちも二三度位は道場破りした覚えがあろう。その折の骨《こつ》を用いて他流試合に参ったごとく持ちかけ、そちの手にあまる者が飛び出て参るまで、当
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