に対《むか》っても、これを厳重に保管せしめたことは言うまでもないこと、年に一度宛、分銅改めの密使すらもわざわざ江戸から送って、つねに城内第一の貴品の取扱いを命じておいたものなのでした。だのに、人の信仰の度を越え、その常軌を逸したものは、普通人が持つ心の物尺《ものさし》を以てしては計ることの出来ないものに違いないのです。問題の人竜造寺長門守がそれでした。ほかに批難すべきところはなかったが、極度の天台宗信者で、京都|叡山《えいざん》の延暦寺《えんりゃくじ》を以て海内第一の霊場と独り決めに決めている程、狂的に近い信仰を捧げていたために、大阪城代に就任するや間もなく比叡山から、内密の献金四万両の調達方を頼みこまれて、ついふらふらと御秘蔵第一の竹流し分銅を融通したのが騒動の初まりでした。額は百分の一にも足りない少額であったにしても、御封印厳重な曰《いわ》く付きの竹流し分銅を他へ流通したとあっては、問題の大きくなるのも当り前のことです。しかもあと十日とたたぬ間もなく江戸から御分銅改めの密使が到着することをちゃんと知っていながら、そのうちの何本かを融通したため、騒ぎは愈々大きくなって、長門守は当然の
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