明権現《とうとよあきごんげん》を預る神主沼田正守と申さば、少しはこのあたりにも知られたわしじゃ。事ここに至っては命にかけてもうぬら二匹、追ッ払わねばならぬ。誰の指し図によって垣のぞきに参ったのじゃ。言わッしゃい! 言わッしゃい! それを言わッしゃい! どやつが指し図致したのじゃ」
「わははは、誰の指し図とは御老体、耳が遠いばかりか脳の方も少々およろしくござらぬな。身共はな、このうしろの奴じゃ、こやつのな――」
ひょいとふり返って見ると奇怪でした。小さくなって慄えてでもいるだろうと思いのほかに、あの男がいないのです。いつのまにどこへ消えてなくなったものか、あの不審な鳥刺しの姿が見えないのです。しかもその刹那! さらに不審でした。
「また来やがッたか。やッつけろ。やッつけろ」
「構わねえ、のめせ! のめせ! 御領主様の廻し者に違えねえんだ。打《ぶ》ちのめせッ、打ちのめせッ」
突然、口々に罵り叫んだ声が聞えたかと思うや同時に、どッと犇《ひし》めき騒ぎ立った喊声《かんせい》が伝わりました。
二
聞えて来た方角は鎮守の森の奥の、こんもりと空高く聳える木立ちに囲まれた、社殿
前へ
次へ
全58ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング