て老神主の目の前二寸あたりの近くへ、ずいともち竿を突きつけると、ふわりふわりとその先を泳がせました。――と見えた一刹那、ヒュウと手元にしごいて繰り出したかと見えるや、術の妙、技の奥儀、主水之介程底の知れない男もない。しなしなと揺れしなっていた二間余りの細い竹がピーンと張り切って、さながらに鋭利な真槍の如くに、ピタリ、老神主の黒目を狙っているのです。かと見えるやそれがまた再びふわりふわりと左右へ泳いで、ある刹那にはその竿先が八本にも見え、次の刹那にはまた二十本位にも見えて、動いたかと思うと途端にピタリとまた黒目を狙い指しながら、千変万化、実にすばらしい妙技でした。
「若僧やるな! 鳥刺しといい貴様といい、愈々|胡散《うさん》な奴原《やつばら》じゃ。どこのどいつかッ。名を名乗らッしゃい? どこから迷って来たのじゃ!」
 いささか事志と違ったと見えて、勿論、真槍は同じ構えにつけたままだったが、老神官少々たじたじとなりながら鋭く言い詰《なじ》ったのを、落付いたものです。
「ウフフ、またそれをお尋ねか。御老体、ちとお耳が遠うござりまするな。身共はな――」
「なにッ、耳が遠いとは何を言うかい。当豊
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