た。不審な鳥刺しの身辺に漂う疑惑は二の次として、弱きに味方し、強きに当る早乙女主水之介のつねに変らぬ旗本気ッ腑は、人も許し天下も許す自慢の江戸魂でした。ましてや穏かならぬ真槍がくり出されるに至っては、あれが啼くのです、しきりと、あの眉間傷が夕啼きを仕出したのです。――のっそり木蔭から現れて、すいすいと足早に近よりながら、血色もないもののように青ざめている鳥刺しの手元から、黙って静かにトリモチ竿を奪いとると、
「御老体、なかなか御出来でござるな」
 ウフフとばかり軽く打ち笑いながら、ふうわり鳥竿を神官の目の前に突き出して、いとも朗かに言いました。
「いかがでござるな。退屈の折柄丁度よいお対手じゃ。この構え、少しは槍の法に適《かな》っておりまするかな」
「なにッ?――何じゃい! 何じゃい! 見かけぬ奴が不意におかしなところから迷って出おって、貴公は、一体何者じゃ!」
「身共でござるか。身共はな、ウフフフ、ご覧の通りの風来坊よ。いかがでござるな。青江流とはまたちと流儀違いでござるが、少々は身共も槍の手筋を学んでじゃ。退屈払いに二三合程お対手仕《あいてつかまつ》るかな」
 ウフフ、また軽く笑っ
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