の、何でござります。わたくし、ついきのうからこの刺し屋を始めましたばかりでござりますゆえ、なかなかその思うように刺せんのでござります。それゆえあの、ついその……」
「こやつ、わしを老人と見て侮っておるな! ようし! それならば消えて失くなるようにお禁厭《まじない》してやるわ。そこ退《の》くなッ」
よぼよぼしながら社務所の内へとって帰ったかと見えたが、程たたぬまに携《たずさ》えて帰って来たひと品は、おどろく事に六尺塗り柄の穂尖も氷と見える短槍でした。リュウリュウと麻幹《おがら》のごとく見事にしごいて、白髯たなびく古木の面に殺気を漂よわながら、エイッとばかり気合もろ共鳥刺しの面前にくり出すと、
「小僧ッ、これでも消えぬかッ」
すべてが全くすさまじい変化でした。足腰のしゃんと立ったのは言うまでもないこと、声までがしいんと骨身にしみ透るように冴え渡って、手の内がまた免許皆伝以上、しかも流儀は短槍にその秘手ありと人に知られた青江信濃守のその青江流なのです。
「ほほう、老人、なかなか味をやりおるな」
何かは知らぬが事ここに及んでは、もう退屈男もゆるゆると高見の見物ばかりしていられなくなりまし
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