ゃいッ、行けと申すになぜ行かぬかッ」
「でも、あの……いいえ、あの、どうも、相済みませぬ。ついその、あの、何でござりますゆえ、ついその……」
ぺこぺこしながら鳥刺しがまた、声までも細々と蚊のような声を出して、言葉もしどろもどろに一向はきはきとしないのです。
「実はあの……、いいえ、あの、重々わるいこととは存じておりますが、ついその、あの何でござります。せめて、あの……」
「せめてあの何じゃい!」
「五ツか六ツ刺さないことには、晩のおまんまにもありつけませんので、かようにまごまごしているのでござります。何ともはや相済みませぬ。どうぞ御見逃し下さいまし……」
「嘘吐かッしゃいッ。刺さねばおまんまにありつけない程ならば、あれをみい、あれをみい、あちらにも、こちらの畠にも、あの通り沢山いるゆえ、ほしいだけ捕ればよい筈じゃ。それを何じゃい、刺しもせずに竿を持ってうろうろと垣のぞき致して、当御社《とうみやしろ》のどこに不審があるのじゃ。行かッしゃい! 行かッしゃい! 行けばよいのじゃ。とっとと消えて失くならッしゃい」
「御尤もでござります。おっしゃることは重々御尤もでござりまするが、実はその、あ
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