ぞ。それにても一朝事ある時は、上将軍家の御旗本を固むる公儀御自慢の八万騎と申されるかッ。笑止者めがッ。慈悲をかけてつかわすべき筈の領民共を苦しめし罪、お直参の名を恥ずかしめたる不埓《ふらち》の所業の罪、切腹しても足りぬ奴じゃが、早乙女主水之介、同じ八万騎のよしみを以て、涙ある計らいを致して進ぜる。――御老体! 御老体! このまに十一人の可哀そうな女共、早う逃がしておやり下されい」
 心得たとばかりに、近侍の者共を槍先一つであしらいあしらい、向うに消えていった老神官を心地よげに見送りながら、主水之介はどっかと、そこの脇息《きょうそく》に腰打ちかけると、文庫の中の奉書《ほうしょ》を取り出して、さらさらと達筆に書きしたためました。

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 拙者儀、領内の女共を掠めて、不埓の所業仕候段|慚愧《ざんき》に堪えず候間、重なるわが罪|悔悟《かいご》のしるしに、出家遁世仏門《しゅっけとんせいぶつもん》に帰依《きえ》致し候条、何とぞ御憐憫《ごれんびん》を以て、家名家督その他の御計らい、御寛大の御処置に預り度、右謹んで奉願上候。なお家督の儀は舎弟重郎次に御譲り方御計らい下さらばわが家門
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