も、虫一つ殺さぬげに見えた菊路の手管、なかなかにうまいのです。――何と答えるか、庭先にひそむ三人の耳は異様に冴え渡りました。だが、こんなおろか者もそう沢山はないに違いない。いや、花も恥じらわしげな菊路の、触れなばこぼれ散りそうな初々《ういうい》しい風情が、ついにおろか者十郎次の情欲をぐッと捕えてしまったに違いないのです。にたにたと北臾《ほくそ》笑みながらでも言っているらしい笑止な声がきこえました。
「剃ろうぞ。剃ろうぞ。見ているうちにそちの可愛さが、もうもう堪らずなった。ふるいつきとうなったわい。今宵は丸めたとても、あすからまた伸びて参る髪の毛じゃ。いいや、却って座興がますやも知れぬ。そうと事が決らば早いがよいゆえ、今すぐ可愛い頭《つむり》となって見しょうわい。誰ぞある! 誰ぞある!」
まことに言いようなく笑止な男です。
「十郎次の変った姿を見せてやるぞ。早うこの髪、剃りおろせい」
ごたごた暫く何かつづいていたかと思われるまもなく、ついに思い通り、頭を丸めさせられたと見えて、菊路の白々しげに、しかも、いかにも情ありげに言った声がきかれました。
「ま! おかわゆらしい……。わがまま御
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