ことにきやつめ、兄と面識のある間柄なのじゃ。それゆえ……」
「分りました。それゆえ顔を見知られぬこの菊に、お兄様に代って懲らしめに参れとおっしゃるのでござりまするか」
「然り。なれども只懲らしめに参るのではない。ちとそこに工夫がいるのじゃ。今も申した通り、至っての女好きじゃでな。さぞかしそちとしては辛くもあろうし、きくもけがわらしい事であろうが、一つには可哀そうな十一人の女子《おなご》のために、二つにはその女子共を掠められて恨み泣きに泣き恨んでおる領民共のために、三つには八万騎旗本一統の名誉のために、そちが重責|荷《にな》った節婦になるのじゃ。それゆえ、よいか、このように申してそちひとりがきゃつの屋敷に乗り込んで参れよ。わたくし、旅に行き暮れて道に踏み迷い、難渋《なんじゅう》致しておる者でござります。ぶしつけなお願いでござりまするが、いち夜の宿お貸し願えませぬかと、この様にな、さもさも困り果てているように見せかけてまことしやかに申すのじゃ。さすれば人一倍色好みのきゃつのことじゃ、兄の口からこのようなこと言うのもおかしいが、江戸でもそう沢山はないそちの縹緻《きりょう》ゆえ、きゃつがほって
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