おく筈はない。わるい病が催して何か言い寄って参らば、そこがそちの働きどころじゃ。近寄らず近寄らせず巧みにあしらって懲《こら》しめてやるのよ」
「ま! 恐ろしい! ……でも、でも仕損じて、もしも身にけがらわしい危険が迫りましたら……」
「死ね!」
「えッ!」
「いや、恥ずかしめられなば死ぬ覚悟で参れと申すのじゃ。役者はそちひとりじゃが、うしろ楯《だて》にはこの兄がおる。京弥もついておる。それからここにお在での風変りなおじい様も控えておられる。そちと一緒に兄達三人も庭先に忍び入り、事急と相成らば合図次第押し入って、充分に危険は救うてつかわすゆえ、その事ならば心配無用じゃ。よいか、今申した通り、きゃつめがいろいろと淫《みだら》がましゅう言い寄って参るに相違ないゆえ、風情《ふぜい》ありげに持ちかけて、きゃつを坊主にせい」
「坊主?![#「?!」は横1文字、1−8−77] なんのためにござります。何の必要がござりまして、御出家にするのでござります」
「それはあとで相分る。わざわざそちを呼び招いたのも、つまりは、やつの頭をクリクリ坊主にさせたいからじゃ。是が非でも出家にさせねばならぬ必要があるゆえ
前へ 次へ
全58ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング