ざります。京弥さまでござります」
「なに? ――いずれにおるぞ?」
「その駕籠の向うに……」
ひょいと見ると、恥ずかしそうにうつむきながら、駕籠の向うにかくれていたのは、まさしく妹菊路の思い人霧島京弥です。
「わッははは、そちもか。もッと出い。こッちへ出い。恥ずかしがって何のことじゃ。ウフフ、あはは。のう京弥、諺《ことわざ》にもある。女子《おなご》の毛一筋は、よく大象《たいぞう》をもつなぐとな。わはは。そちも菊に曳かれて日光詣りと洒落おったな」
「いえ、あの、そのようなことで手前、お伴《とも》をしたのではござりませぬ。長い道中を菊どのおひとりでは何かとお心もとなかろうと存じましたゆえ、御警固かたがたお伴をしたのでござります」
「なぞと言うて、嘘を申せ。嘘を申せ。ちゃんと二人の顔に書いてあるぞ。菊がねだったのやら、そちが拗《す》ねたのやら知らぬが、別れともない、別れて行くはいやじゃ、なら御一緒にと憎い口説《くぜつ》のあとで、手に手をとりながら参ったであろうが喃。ウフフ、あはは。いや、よいよい、京弥までが一緒に参ったとあらば、風情の上になおひと風情、風情を添えるというものじゃ……。のう御
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