変り者同士の、きくだにまことに胸のすくような団欒《だんらん》でした。程よく焼いて用いるとき、――ピタピタと言う軽い足音が社務所の玄関口に近づいて来たかと思われるや一緒で、訪《おと》のうた声はまさしく銀鈴のような涼しい女の声です。
「お兄様! お兄様! あの、お兄様はどこにござります」
「おお、菊か。菊路か」
「あい、遅なわりました。只今ようやく参着致しましてござります。お早く! お早く! 御無事なお顔をお早く見せて下さりませ」
「まてまて、今参る今参る。ちょっと今大変なのじゃ。今参る、今参る。――そらみい。兄じゃ、よう見い。傷もあるぞ」
「ま! 御機嫌およろしゅうてなにより……。お色つやもずっとよろしくおなり遊ばしましたな」
「うんうん。旅に出ると干物なぞが頂けて食べ物がよろしいのでな。そちも半年《はんとし》見ぬまにずんと美しゅうなったのう」
「もうそのような御笑談ばかり。――あの、それより、あの方も、あの、あのお方も御一緒にお越しなさりました」
「誰じゃ。書面にはそちひとりに参れと書いてやった筈じゃが、あの方とは誰ぞよ」
「でもあの……、いいえ、あの、あの方でござります。京さまでご
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