拠どこにおじゃる。石垣の修築と境内の秋芝刈りを願おうと存じたのでな。みなの衆にもその用意して社殿の裏に集《つど》うて貰うたのじゃ。鍬をお持ちの方々は即ちその石垣係り、鎌を所持の人達は即ち草刈り係り、それから竹槍と棍棒は――」
「何でござる! 何のために左様なもの用意させてござる!」
「狸《たぬき》狩りじゃ。奇態とあの境内へ夜な夜なムジナ、マミの類《たぐい》がいたずらに参るのでな、尊い御神域を修復中にケダモノ共が荒してはならぬと、追ッ払い役に頼んだのじゃ。あははは。では、参るかな。みなの衆も行かッしゃい」
「ならぬ! 罷《まか》りなりませぬ! 境内修復ならばかような夜中にせずともよい筈じゃ。明日という日がござる。なりませぬ! 遣わすこと罷りなりませぬ!」
「これはしたり、名君名主になろうには、もう少し物の道理の御修業が御肝要じゃ。いかにもあすという日がおじゃる。しかしな、民百姓というものは、日のうちこそ大事、大事な日中を使い立て致さば、お身が栄躍栄華《えいようえいが》のもとたる米すら作ることなりませぬ。それゆえ手すきの夜業《よなべ》にと、みなの衆にもお集りを願い、ぜひにもまた今宵お借りせ
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