頂戴しておるゆえ、またまた拝借に参ったのじゃ。では、頂いて参ろうわい。――みなの衆、豊明権現様もさき程からきっとお待ちかねじゃ。遠慮は要りませぬぞ。急いで行かッしゃい」
「まてッ、まてッ、待たッしゃい!」
「御用かな」
「おとぼけ召さるなッ。祖先の御遺訓ゆえ御入用ならば労役人夫やらぬとは申さぬ。決してさしあげぬとは申さぬが、この百姓共には詮議の筋がある。おぬしにはこやつらの手にせる品々、お分り申さぬか」
「これはしたり、九十の坂を越してはおるが、まだまだ両眼共に確かな正守じゃ。鍬をもち、鎌をも構え、中には竹槍|棍棒《こんぼう》を手にしておる者もおじゃるが、それが何と召されたな」
「何と召されたも、かんと召されたもござらぬわッ。かような物々しい品を携《たずさ》え、あの境内に寄り集って、不埓な百姓一揆を起そうと致しおったゆえ、ひと搦めに召し捕ったものじゃ。ならぬ! ならぬ! なりませぬ! この者共を遣《つか》わすこと罷《まか》りならぬゆえ、とッとと帰らッしゃい!」
「いやはや困った御笑談《ごじょうだん》を申さるる御方じゃ。御立派やかな若殿が老人を弄《からか》うものではござらぬわい。一揆の証
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