ねばならぬのじゃ! 神意は広大、御神罰もまた御広大、崩れた垣のままでいち夜たりとても棄ておかば、御社《みやしろ》預る沼田正守、豊明権現様に御貴殿が御家名安泰の御祷りも出来ぬというものじゃ。では、みなの衆、参りましょうかな!」
「いいや、なりませぬ! 断じてやることなりませぬ! 強《た》って労役人夫入用ならば、当領内にはまだ百姓共が掃く程いる筈、そやつ等を呼び集めさッしゃい。この者共は一歩たりとも屋敷外へ出すことなりませぬ!」
「分らぬ御方じゃな。特にこの方々呼び集めたのは、力も人の一倍、働らきも人一倍でおじゃるゆえ、わざわざえりすぐってお集《つど》いを願うたのじゃ。それゆえ、ぜひにもこの方々でのうては役に立たぬ。それとも――」
「それともなんでござる!」
「いいやな、これ程申してもお用立出来ぬと仰せあるならば、致し方がおじゃりませぬゆえな、今から江戸へ急飛脚飛ばして、寺社奉行様のお裁《さば》きを願いましょうわい。御領内に鎮座まします御社でござるゆえ、御身のものと申さば御身のものじゃが、社寺仏閣の公事《くじ》争い訴訟事は寺社奉行様御支配じゃ。御先祖様が無心徴発苦しからずと仰せのこしておじ
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