ぐにそっくり頂戴に参らばようござるわい」
「………?」
「お分りでござらぬか。あれじゃ。あれじゃ。あの大和田八郎次どのお残しの一書じゃ。労役人夫必要の時あらばいか程たりとも微発苦しからずと、子々孫々にまで言いきかせてござるわい。すぐにあとから追っかけて参って、引かれていったあの者共をそっくり頂戴して参るのよ」
「いやはや、なる程。わしも軍学習うたつもりじゃが、若い者の智慧には敵わぬわい。ようおじゃる。ゆるゆるひと泡吹かしてやりましょうわい」
塵を払って、白髯をなでなで至極取り澄ましながら出て行くと、老神官は大きく呼ばわりました。
「みなの衆、行かッしゃい! 行かッしゃい! あとは沼田正守、きっと御引受け申すゆえ、おとなしゅう引かれて行かッしゃい!」
ざわざわとやや暫し農民達のざわめきがつづいていたが、いずれも心に何事か察するところがあったと見えて、まもなく捕り方達に引かれて行く静粛な足音がきこえました。
四
表はすでにもうとッぷり暮れ切って、時刻は丁度宵六ツ下り。そうしてポツリポツリと、糠《ぬか》のようなわびしい秋時雨でした。
それゆえにこそ表はさらに暗い。顔
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