せば、農民共は気勢を揚げて、争いを大きくするに違いない。大きくすれば味方に怪我人の出るのは言うまでもないこと、捕り手のうちにも殺戮《さつりく》される者が出るに違いない。事、ひとたび流血沙汰に及んだとすれば、農民達にいか程正義正当の理由があったにしても、士農工商、階級の相違、権力の相違が片手落ちならぬ片手落ちの裁きをうけて、結局悲しい処罰をうけねばならぬ者は、正しいその農民達なのです。――途は一つ! 只一つ! 事を荒立てないで、怪我人も出さず、科人《とがにん》も作らず、未然にすべてを防ぐ手段《てだて》を講ずる以外には何ものもないのです。しかも事実は、談合協議こそしていたが、まだ一揆の行動に移ったわけではないのでした。いかにすべきか? ――考えているその目のうちに、はしなくもちらりと映ったものは、床の間に掛けてあるあの一軸です。
「ウフフ。策はあるものじゃ。待たれよ! 待たれよ! お待ち召されよ!」
ねじ鉢巻に股立《ももた》ちとって、手馴れの短槍小脇にしながら気色ばんで駈け出そうとした、老神主を鋭ぐ呼びとめると、静かに言ったことでした。
「行ったら危ない。捕らせてやらっしゃい。あとからす
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