が上策じゃ。一揆は国の御法度、ひとりなりとも罪に問わるる者があっては身共が折角の助力も水の泡ゆえ、その旨《むね》百姓共にとくと言いきかせて、すぐさま引き揚げるよう御伝えさッしゃい」
心得たとばかり駈け出そうとしたその刹那! わッと言うけたたましい喊声《かんせい》が挙ると同時に、何事か容易ならぬ椿事でもが勃発したらしく、突然バタバタと駈け違う物々しい人の足音が、社殿のうしろから伝わりました。いや、それと一緒です。ざんばら髪に、色青ざめた農民のひとりが社務所の中へ駈け込んで来ると、息せき切って伝えました。
「やられました! やられました! あいつめが、あの鳥刺しの奴めが密訴したに違げえねえんです! 御領主様が捕り方を差し向けましたぞッ。一揆の相談するとは不埓な百姓共じゃと怒鳴り散らして、三十人ばかりの一隊が捕って押えに参りましたぞッ」
「なにッ――」
老神官正守は言うまでもないこと、退屈男も期せずして愕然《がくぜん》と色めき立ちながら、同時に突ッ立ちあがりました。――だが、事に当って泰然自若、つねに思慮分別沈着を失わないのが主水之介のほめていいところです。――押ッ取り刀で今二人が飛び出
前へ
次へ
全58ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング