おりませぬか」
「おる段ではない。何にお使い召さる御所存じゃ」
「江戸への飛脚じゃ。おらば屈強な者を二人程御連れ願えぬか」
「心得申した。すぐさま選りすぐって参りましょうわい」
まもなくそこへ見るからに精悍《せいかん》そうな若者が伴われて来たのを待たしておくと、さらさらと書き流したのは次のごとき一書でした。
主水之介至極無事息災じゃ。旅は江戸よりずんと面白いぞ。さて、そなたに火急の用あり。飛脚に立てたるこの者共を道案内に、宿継《しゅくつ》ぎの早駕籠にて早々当地へ参らるべし、お待ち申す。
[#下げて、地より2字あきで]疵の兄より
菊路どのへ
不思議です。いかなる策を取ろうというのか。飛脚の送り主は愛妹菊路でした。あの美男小姓霧島京弥にその愛撫をまかせて、るす中存分に楽しめと言わぬばかりに粋な捌《さば》きを残しながら江戸の屋敷を守らせておいた、あの妹菊路なのです。
「すぐ行け。ほら、路銀じゃ。二十両あらば充分であろう。夜通し参って、夜通し連れて参るよう、金に絲目をつけず手配せい」
その場に発足《ほっそく》させておくと、老神主に伝えさせました。
「鳴りを鎮めて容子を窺うこと
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