として駈け出そうとした老神主を静かに呼びとめると、早乙女主水之介なかなかに兵法家でした。
「百姓共を悦ばすはよいが、十郎次と身共面識があるだけに、懲《こ》らしめる方法をちと工夫せずばなるまい。十一人とやらの女子供はいずれもみな一室に閉じこめて見張り中でござろうな」
「見張りどころか、まるで屋敷牢でござりますわい。しかもじゃ、十郎次の助の字、掠《かす》めとった女子供《おんなこども》はいずれも裸形にしてな、夜な夜な酒宴の慰みにしているとやらいう噂ゆえ、百姓達が殺気立って参ったは当り前でおじゃりますわい」
「いかさまのう。聞いただけでも眉間傷が疼々《うずうず》と致して参った。しかし、事は先ず女共を無事に救い出すが第一じゃ。いきなり身共が乗り込んで参らば面識ある者だけに、十郎次、罪のあばかれるのを恐れて女共を害《あや》めるやも知れぬゆえ、それが何よりの気懸りじゃ。二つにはまたわるい病の根絶やしすることも必要じゃ。今は身共の力で懲《こ》らしめる事は出来ても、この先たびたび病気が再発するようならば、仏作って魂入れずも同然ゆえ、利きのいい薬一服盛ってつかわしましょうぞ。百姓共のうちに足の早い者二三人
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