公のあのお腕前と御胆力、少々御用立て願いたいのじゃ。否か応か御返答いかがでおじゃる」
「なるほど、事の仔細も御所望の筋もしかと分り申した。もしこの主水之介が否と申さば?」
「知れたこと、この場に先ず御貴殿を血祭りに挙げておいて、老体ながら沼田正守、一揆の一隊引具し、今宵にも御領主の屋敷に乱入いたし、力弱き農民百姓達を苦しめる助の平の大和田十郎次めにひと泡吹かすまででおじゃるわ」
「わはは。いや、面白い面白い。身共を先ず血祭りに挙げるとはさも勇ましそうに聞えて、ずんと面白うござりますわい。老いてもなお負けぬ気な、その御気性、主水之介近頃いちだんと気に入ってござる。ましてや世の亀鑑《きかん》たるべき旗本中にかかる不埓者《ふらちもの》めが横行致しおると承わっては、同じ八万騎の名にかけて容赦ならぬ。いかにも身共、御所望の品々御用立て仕ろうぞ」
「なに! 御力となって下さるか。忝《かたじけ》けない、忝けない。ほッと致して急に年が寄ったようじゃ。みなの衆もさぞかし躍り上がって悦びましょうゆえ、早速事の仔細を知らせてやりましょうわい」
「いや、待たれよ。待たれよ。お待ち召されよ」
 欣々《きんきん》
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