当代大和田十郎次は、旗本も旗本、石高《こくだか》二千八百石を領する小普請頭《こぶしんがしら》のちゃきちゃきだったからです。しかも事は今、同じそのお直参八万騎の列につながる同輩の所領地に於て、由々敷も容易ならぬ火蓋を切らんとするに至っては、自ら天下御政道隠し目付御意見番を以て任ずる早乙女主水之介の双の目が、らんらん烱々《けいけい》と異様に冴え渡ったのは当然でした。
「騒ぎは何でござる。どうやら百姓共の容子を見れば、一揆でも起しそうな気勢《けはい》でござるが、騒ぎのもとは何でござる」
「それがいやはや、さすがの沼田正守、あきれ申したわい。かりにも御領主どのゆえ、悪《あし》ざまに言うはちと憚《はば》り多いが、それにしても当代十郎次どの、少々あの方がきびしゅうてな」
「きびしいと申すは、年貢《ねんぐ》の取立てでござるか」
「どう仕って、米や俵の取立てがきびしい位なら、まだ我慢が出来申すというものじゃが、あれじゃ、あれじゃ、目篇《めへん》でござるわい」
「目篇とは何でござる」
「目篇に力《か》の字じゃ」
「ウッフフ。わッははは! 左様でござるか。助《すけ》でござるか。助でござるか。助の下は平でご
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