ものは次のごとくに書き流された細《こまか》い文字です。
「予ガ子々孫々誓ッテ守ルベシ、大和田八郎次《オオワダハチロウジ》、病気平癒ノ祈願致セシトコロ、九死ニ一生ヲ得テ幸イニ病魔ノ退散ヲ見タルハ、コレ単《ヒトエ》ニ当豊明権現ノ御加護ニ依ルトコロナリ
依而《ヨッテ》、予ガ家名ノ続ク限リ永代《エイダイ》、米、年ニ参百俵宛貢納シ、人夫労役ノ要アルトキハ、領内ノ者共何名タリトモ微発《チョウハツ》シテ苦シカラズ、即チ後日ノ為ニ一書ス 領主大和田八郎次※[#丸付きの「印」、233−下−1]――」
「ほほう喃《のう》」
読み下すと同時に退屈男は、はッとなって意外げにきき尋ねました。
「珍しい一軸じゃ。御老体、当所はそれなる軸に見える大和田家の知行所か」
「左様でおじゃり申す。何やら驚いての御容子じゃが、貴殿大和田殿御一家の方々御知り合いでおじゃりますか」
「知らいで何としょう。それに見える八郎次殿はたしか先々代の筈、当主十郎次は身共同様同じ八万騎のいち人じゃ。それにしても、十郎次どのの所領にめぐりめぐって参ったとは不思議な奇縁でござるな」
おどろいたのも無理はない。軸に書かれた八郎次の孫なる
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