七八のかわいらしい奴に化けたりするっていうんですがね。どうもさっきの娘が臭せえんです。足の早えのも、ちッとおかしいが、今登っていったばかりなのに、あの青僧がきょときょと入れ違げえにおりて来たんだからね、てっきりさっきの娘がちょろまかしたに違げえねえんですよ」
言っているとき、またひとりそわそわしながらおりて来た五十がらみの、同じように講中《こうちゅう》姿した男がありました。しかもそれがやはり言うのです。
「あのう、もし――」
「財布か」
「じゃ、あの、お拾い下さいましたか!」
「知らぬ、知らぬ、存ぜぬじゃ」
「はてね、じゃ、どうしたんだろう。お山に行くまではたしかにあったんだがな。ねえとすりゃ大騒動だ。ご免なんし――」
通りすぎて程たたぬまに、またひとりきょときょとしながら坂を降って来ると、同じように青ざめながら、ぶしつけに言いました。
「もしや、あの?」
「やはり財布か」
「へえい。そ、そうなんです。祠堂金が二百両這入っていたんですが、もしお拾いでしたら――」
「知らぬ、知らぬ、一向に見かけぬぞ」
「弱ったことになったな。すられる程ぼんやりしちゃいねえんだから、宿へでも置き忘れた
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