のかしら――。いえ、どうもおやかましゅうござんした」
 行き過ぎるや同時に、退屈男の双のまなこは、キラリ冴え渡りました。ひとりばかりか三人迄も同じ難に会うとは許し難い。
「よほどの凄腕《すごうで》と見ゆるな」
「ええもう、凄腕も凄腕も、この三月ばかりの間に三四十人はやられたんでしょうがね、只の一度も正体はおろか、しッぽも出さねえですよ」
「根じろはどこにあるか存ぜぬか」
「それがさっぱり分らねえんです。お山に巣喰っていると言う者があったり、いいやそうじゃねえ、南部の郷にうろうろしているんだと言う者があったりしていろいろなんだがね、どっちにしてもあッしゃさっきの娘が臭せえと思うんですよ。――きっとあの手でやられたんだ、おいらにさっき道をきいたあの伝でね、袂をくねくねさせながら恥ずかしそうに近よって来るんで、ぼうッとなっているまにスラれちまったんですよ。――それにしても姿の見えねえっていうのは奇態だね、どこへずらかッちまったんだろうな。なにしろ、この霧だからね」
 だが、身延の朝霧、馬返しまで、という口碑伝説は、嘘でない。聖日蓮《しょうにちれん》の御遺徳の然らしむるところか、それとも浄魔秘
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