かも、そのそわそわしている容子というものが実に奇怪でした。うろうろしながら懐中を探ったかと思うとしきりに首をかしげ、かしげたかと思うとまた嗅ぐようにきょときょと道をのぞきながら、必死と何かを探し探しおりて来るのです。いや、おりて来たばかりではない。ばったり道の真中で退屈男達一行に打つかると、青ざめて言いました。
「あのうもし、つかぬ事をお尋ねいたしますが、旦那様方はどちらからお越しなすったんでございましょうか」
「背中の向いている方から参ったのよ。何じゃ」
「財布でごぜえます、もしや道でお拾いにはならなかったでござんしょうかしら?……」
「知らぬぞ。いかが致したのじゃ」
「落したのか掏摸《すら》れましたのか、さっぱり分らないのでござります。今朝早く南部の郷の宿を立ちました時は、確かに五十両、ふところにありましたんですけれど、今しがたお山へ参りまして、御寄進に就こうと致しましたら、いつのまにやら紛失していたのでござります」
「ほほう、それは気の毒よ喃、知らぬぞ、知らぬぞ。目にかからば拾っておいてつかわしたのじゃが、残念ながら一向見かけぬぞ」
「悲しいことになりましたな。手前には命にかかわ
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