それもまた近頃ずんと面白かろうぞ」
不敵に言いすてながら二人をうしろに、女を荷物にしたままで、急がず騒がず総門目ざしました――途端!
「あれじゃ! あれじゃ!」
「搦《から》めとれッ。搦めとれッ」
口々にわめき立てながら、行く手に殺到して来たのは僧兵もどきの二三百人と、身ごしらえ厳重なお山同心の一隊です。
「ほほう、揃うてお見送りか、夜中大儀々々」
少しあの向う傷の事を考えればよいのに、さッと恐れ気もなく行く手を塞いだのは八九名。同時に一喝が下りました。
「眉間をみいッ。眉間の三日月をみいッ。天下御免の通行手形じゃ。祖師日蓮のおん名のために鞘走《さやばし》らぬまでのこと、それを承知の上にて挑みかからば、これなる眉間傷より血が噴こうぞ」
微笑しながらずいずいと行くのに手が出ないのです。その騒ぎを聞いたか、わッと参籠所から雪崩出て来たのは、善男善女の真黒い大集団でした。見眺めるや退屈男の声は冴え渡りました。
「きけ! きけ! いずれもみなきけ! その方共の懐中を狙うたお山荒しの女スリは、直参旗本早女主水之介が押え捕ってつかわしたぞ! いずれも安心せい!――ではうしろの二人。あれが総
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