門じゃ。ゆるゆる参ろうぞ」
威嚇しては押し分け、押し分けては威嚇しながら、悠々と総門外へ出ると、冴えたり! その叱咤のすぱらしさ!
「さあ参れッ。この門を外に出でなば斬り棄て御免じゃ。三目月傷も存分に物を言おうぞッ。遠慮のう参れッ」
だが来ない。来られるわけがないのです。本当に三日月傷があやかにもすさまじく物を言うのであるから、来られるわけがないのです。――その代りに、ちょろちょろと、やって来たのは、どじょう殺し持参のあの三|的《てき》でした。
「よう。日本一のお殿様! 向う傷のお殿様! あッしだ。あッしだ。たまらねえお土産をお持ちだね。お約束だ、お手伝い致しますぜ」
「生きておったか。幸いじゃ。早う舟を用意せい」
「合点だッ。富士川を下るんですかい」
「身共ではない。ここに抱き合うておいでの花聟僧に花嫁僧お二人じゃ。しっぽり語り合うているまに、舟めが岩淵まで連れてくれようぞ。――両人、来世も極楽じゃがこの世もずんとまた極楽じゃ。そのような恋の花が咲いておるのに、つむりを丸めて味気のう暮らすまでがものはない。遠慮のう髪を伸ばして楽しめ。楽しめ。わははは、身共はひとりで退屈致そうから
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