ぞ。ほら、繩目を切ってつかわすわ」
「よッ、要らぬ御節介致したなッ。何をするかッ。何をッ」
血相変えて玄長が詰《なじ》ったのは当然でした。
「女犯《にょぼん》の罪ある大罪人を、わが許しもなく在家《ざいけ》の者が勝手に取り計らうとは何ごとかッ」
「たけだけしいことを申すでない。ひと事らしゅう女犯の罪なぞと申さば裏の杜《もり》の梟《ふくろう》が嗤《わら》おうぞ」
「ぬかしたなッ。では、おぬし、五万石の尊い寺格、許しもうけずに踏み荒そうという所存かッ。詮議禁制、俗人不犯の霊地を荒さば、そのままにはさしおきませぬぞッ」
「またそれか、スリの女を手飼いに致す五万石の寺格がどこにあろうぞ。秘密はみな挙ったわッ。どうじゃ売僧《まいす》! そちの罪業《ざいごう》、これなる恋尼に、いちいち言わして見しょうか!」
「なにッ!……」
「そのおどろきが何よりの証拠じゃ。どうじゃ売僧! これにても霊地荒しの、俗人不犯のと、まだ四の五の申すかッ」
「そうか! 女めがしゃべったか。かくならばもう是非もない! ひと泡吹かしてくれようわッ」
だッと掴みかかろうとしたのを、静かにするりとかいくぐっておいて、疾風のよう
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