いにゅう》致しおった! 退れッ。退れッ。老中、寺社奉行の権職にある公儀役人と雖も、許しなくては通れぬ場所じゃ。出いッ。出いッ。表へ帰りませいッ」
不意を打たれてぎょッとうろたえ上がったのは、荒法師玄長でした。否! さらにうろたえたのはあの女スリでした。立て膝の蹴出しも淫らがましく、プカリプカリと長煙管を操っていた、あの許し難き女スリでした。両人共さッと身を退《ひ》いて、気色《けしき》ばみつつ身構えたのを、
「騒ぐでない、江戸に名代の向う傷は先程より武者奮い致しておるわ。騒がば得たりと傷が飛んで行こうぞ」
不気味に、静かに、威嚇しながら、そこに慄え慄え、蹲《うずくま》っている、わたしの念日様なる恋の対手の若僧をじろりと見眺めました。――無理はない。まことに恋の娘が尼にまでなったのも無理がない、実に何ともその若僧《じゃくそう》が言いようもない程の美男なのです。
「ほほう、川下の尼御前、羨ましい恋よ喃」
「いえ、あの、知りませぬ。そんなこと知りませぬ。それより念日様をお早く……」
「急がぬものじゃ。今宵から舐《な》めようとシャブろうと、そなたが思いのままに出来るよう取り計らってつかわそう
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