三日月形のあの冴えやかな向う傷です。
これにあってはやり切れない。ひとたまりもなく三人の青坊主達はちぢみ上がって、へたへたとそこに手をつきました。
ずいずいと通りすぎて、目ざしたのはあの女スリが長煙管|弄《もてあそ》んでいると言った庫裡《くり》の奥の離れでした。
「あの灯《あかり》の洩れている座敷が離れか」
「あい。ま! あの方も、念日様も、あそこへ曳かれてまた折檻に合うていなさりますと見え、あの影が、身悶《みもだ》えしておりまするあの影が、わたしの念日様でござります」
庭の木立ちを透かして見ると、まさしく三つの黒い影が障子に映っているのです。何やら怒号しているのは、あれだあれだ、六尺豊かな荒法師玄長坊でした。
と見るやつかつかと足を早めて、さッとその障子を押しあけると、まことにどうもその自若ぶり、物静けさ、胆の太さ、言いようがない。
「売僧《まいす》、ちん鴨《かも》の座興《ざきょう》にしては折檻《せっかん》が過ぎようぞ、眉間傷が夜鳴き致して見参《けんざん》じゃ。大慈大悲の衣《ころも》とやらをかき合せて出迎えせい」
「なにッ――よッ。また参ったかッ。た、誰の許しをうけて来入《ら
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