日様が嘘を言う気づかいござりませぬゆえ、本当のことに相違ござりませぬ」
「売僧《まいす》めッ、よくも化かしおッたなッ。道理で必死とあの女を庇いおッたわッ。スリを手先に飼いおる悪僧が衆生済度もすさまじかろうぞ。どうやら向う傷が夜鳴きして参ったようじゃわい。案内召されよ」
事ここに至らばもう容赦するところはない。篠崎流軍学の必要もない。院代玄長にかかる横道不埒《おうどうふらち》のかくされたる悪業があるとすれば、五万石が百万石の寺格を楯にとって、俗人不犯詮議無用の強弁《ごうべん》を奮おうと、傷が許さないのだ。あの眉間傷が許さないのです。――ずかずか引返して行くと、床しい美しい尼姿の恋娘をうしろへ随えながら、黙ってずいと行学院の大玄関を構わずに奥へ通りました。
「あの、なりませぬ! なりませぬ! どのようなお方もいつ切《せつ》通してならぬとの御院代様御言いつけにござりますゆえ、お通し申すことなりませぬ」
「………」
駈け出して小賢《こざか》しげに納所坊主《なっしょぼうず》両三名が遮《さえぎ》ったのを、黙々自若《もくもくじじゃく》として、ずいとさしつけたのは夜鳴きして参ったと言った眉間三寸、
前へ
次へ
全41ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング