「変っているな。もそッと致せとおっしゃったって、旦那のような変り種の殿様に出られりゃ気が抜けちまわあ。じゃ何ですかい。止めに這入《へえ》ったんじゃねえんですかい」
「左様、気に入らぬかな。気に入らなくば止めてつかわすぞ。一体何が喧嘩の元じゃ」
「何もこうもねえんですよ、あッちの野郎はね。横取りの三公と綽名《あだな》のある仕様のねえ奴なんだ。だからね、あっしが見つけたお客さんを、またしても野郎が横取りに来やがったんで、争っているうちに、ついその、喧嘩になったんですよ。本当は仲のいい呑み友達なんだが、妙な野郎でね、シラフでいると、つまりその酒の気がねえと、奇態にあいつめ喧嘩をしたがる癖があるんで、どうも時々殿様方に御迷惑をかけるんですよ。ハイ」
「ウフフ、陰にこもった事を申しおる喃。シラフで喧嘩をしたがる癖があるとは、近頃変った謎のかけ方じゃ。では何かな、横取りの三公とか申すそちらの奴は、酒を呑ますとおとなしくなると言うのじゃな」
「えッへへ、と言うわけでもねえんだが、折角お止め下すったんだからね、お殿様がいなくなってからすぐにまた喧嘩になっては、お殿様の方でもさぞかし寝醒が悪かろうと、親
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