切に申しあげて見ただけのことなんです。いいえ何ね、それも沢山は要らねえんだ、ほんの五合ばかり、僅か五合ばかり匂いを嗅《か》がせりゃけっこう長くなるんですよ。へえい、けっこう楽にね」
「ウフフ、なかなか味な謎をかける奴じゃ。酒で長くなるとは、どじょうのような奴よ喃、いや、よいよい、五合程で見事に長くなると申すならば、どしょうにしてやらぬものでもないが、それにしても喧嘩のもとのそのお客はどこにいるのじゃ」
「……? はてな? いねえぞ、いねえぞ、三|的《てき》! 三的! ずらかッちまったぜ。いい椋鳥《むくどり》だったにな。おめえがあんまり荒ッぽい真似するんで、胆《きも》をつぶして逃げちまったぜ」
「わはははは、お客を前に致して草相撲の稽古致さば、大概の者が逃げ出すわい。椋鳥とか申したが、どんなお客じゃ」
「どんなこんなもねえんですよ。十七八のおボコでね、それが赤い顔をしながら、こんなに言うんだ。あの、もうし馬方さん、身延のお山へはまだ遠うござんしょうかと、袂をくねくねさせながら、やさしく言うんでね。そこがそれ、殿様の前だが、お互げえにオボコの若い別嬪《べっぴん》と来りゃ、気合いが違いまさあ
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