くえ》を求めました。
 だが、いないのです。本堂からお祖師堂。お祖師堂から参籠所、参籠所から位牌堂《いはいどう》、位牌堂から経堂《きょうどう》中堂《ちゅうどう》、つづいて西谷《にしだに》の檀林《だんりん》、そこから北へ芬陀梨峯《ふんだりみね》へ飛んで奥の院、奥の院から御供寮《ごくりょう》、それから大神宮に東照宮三光堂と、七|堂伽藍《どうがらん》支院《しいん》諸堂《しょどう》残らずを隈《くま》なく尋ねたが似通った年頃の詣で女はおびただしくさ迷っていても、さき程のあの怪しき女程のウブ毛も悩ましい逸品は、ひとりもいないのです。
 ぐるりと廻って、再び本堂前まで帰って来たとき、
「とうとう見つかった。こんなところにおいででござんしたか、もしえ殿様!」
 不意にうしろから呼びかけた声がありました。馬返しで別れた横取りの三公です。プーンと酒が臭い。
「どじょうになったな。何の用じゃ」
「えッへへへへ、どうもね、この通り般若湯《はんにゃとう》ですっかり骨までも軟かくなったんで、うれしまぎれに御殿様の御容子を拝見に参ったんでござんす。一件の女的《あまてき》はばれましたかい」
「見失うたゆえ、探している
前へ 次へ
全41ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング