、当霊場は見物なぞする所ではござりませぬ。御信心ならばあちらが本堂、こちらが御祖師堂、その手前が参籠所でござります。御勝手になされませ」
剣もほろろにはねつけた気の強さ! 無理もない、聖日蓮《しょうにちれん》が波木井郷《はきいごう》の豪族、波木井実長の勧請《かんじょう》もだし難く、文永十一年この一廓に大法華の教旗をひるがえしてこのかた、弘法済世《ぐほうさいせい》の法燈連綿としてここに四百年、教権の広大もさることながら、江戸宗家を初め紀《き》、尾《び》、水《すい》の御三家が並々ならぬ信仰を寄せているゆえ、将軍家自らが令してこれに法格を与え、貫主《かんす》は即ち十万石の格式、各支院の院主は五万石の格式を与えられているところから、納所《なっしょ》の雛僧の末々に至るまでもかように権を誇っていたのは当り前です。
「ウフフ、こまい奴が十万石を小出しに致しおったな。鰯の頭も神信心、尼になっても女子《おなご》は女子じゃ。見物してならぬと言うなら、遊山致してつかわそうぞ」
あちらへのそり、こちらへのそり、ウチワ太鼓、踊り狂ういやちこき善男善女の間を縫いながら、逃げのびた女やいずこぞとしきりに行方《ゆ
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