すかな」
「いいえ、そんなこと、――わたしあの、知りませぬ」
 くねりと初い初いしげに身をくねらして、パッと首筋迄も赤らめたあたり、三十年増が化けたものなら正に満点。――然し退屈男の眼はそのまにもキラリキラリと鋭く光りつづけました。掏摸《すり》とった小判はどこに持っているか? 胸の脹らみ、腰の脹らみ? だが、腰にも胸にも成熟した娘の匂やかさはあっても、小判らしい包みはないのです。ないとしたら――あの手をやったのだ。スリ取った金は途中で道のどこかにかくしておいて、ひと目のない時に掘り出す彼等の常套手段を用いているに違いないのです。――退屈男は、軽く微笑しながら掏摸《す》る機会を与えるように、わざと女の側へ近よると、懐中ぽってりふくらんでいる路銀の上をなでさすりながら、誘いの隙の謎をかけました。
「どうも小判はやはり身の毒じゃ。母様がな、きつい日蓮信者ゆえ、ぜひにも寄進せいとおっしゃって二百両程懐中致してまいったが、腹が冷えてなりませぬわい。――ほほう、襟足に可愛らしいウブ毛が沢山生えてじゃな。のう、ほら、この通り、男殺しのウブ毛と言う奴じゃ。折々は剃らぬといけませぬぞ」
「わたし、あの…
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