んだ! 静かにせんか! 静かにせんか! 何をするのじゃ! 何をするのじゃ!」
必死に手綱引きしめて声の限り制したが、事の勃発《ぼっぱつ》する時というものは仕方がない。さながら狂馬のごとくに鬣逆《たてがみ》立てながら、嘶《いなな》きつづけて挑みかかったと見るまに、疾走中の早馬は、当然のごとく打ちおどろいて、さッと棒立ちになりました。と同時です。馬上の二人がまた二本差す身でありながら、あまり馬術に巧みでなかったと見えて、あッと思った間に相前後しながら、竿立ちになったその馬の背から、もんどり打って街道の並木道に、蛙のごとく叩きつけられました。
二
「伸びたか。面倒なことになりそうじゃな」
同時に退屈男もそれと知るや、早くも事のもつれそうなのを見てとって、手にしていた釣竿をゆらりゆらりとしなわせながら、のっそりと立ち上がりました。まことにまたこの位、面倒なことになってはなるまいと願っても、ならないではいられない出来事というものもないのです。一方は農夫、一方は切捨御免、成敗勝手次第のお武家である上に、挑みかかった方が、また一刀両断、無礼打ちにされても文句の言えぬその農民の農
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