馬であってあれば、結果は元より歴然。――だが不審なのは、それまで殊のほか温順だった黒鹿毛が、なにゆえにかくも狂おしく弾《はず》み出したか、その原因が謎でした。不思議に思ってのっそり歩みよりながら、よくよく見|眺《なが》めると、無理ない。まことに天地自然|玄妙《げんみょう》摩珂《まか》不思議、畜生ながら奴等もまた生き物であって見れば甚だ無理がないのです。竿立ちになって躍《おど》り上った二頭の早馬は、なんと剛気なことにも、二頭共々々揃いに揃って、あやかに悩《なや》ましい牝馬《めうま》なのでした。しかも挑みかかった黒鹿毛がまた、いちだんと不埒《ふらち》なことには、かしこのあたりも颯爽として、いとも見事な牡馬《おうま》なのです。
「わははははは、左様か左様か。畜生共に恋風が吹きおったかい。わははは、わははは。道理でのう、道理でのう、いや、無理もないことじゃ、牝と牡なら至極無理もないことじゃ」
 カンカラと声を立てて退屈男は、傍若無人に笑いました。しかし、笑っていられないのはふり落された二人です。退屈男のその大笑いを、己れ達に加えられた嘲笑とでも勘違いしたのか、果然その満面に怒気を漲らせると、身
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