介も御意のままにならぬと見えて、手の届きそうなところにひらひらと泳いでいるのが見えながら、たやすく魚の方で対手になってくれないのです。
「わはははは、憎い奴じゃ。憎い奴じゃ。細《こま》い奴が天下のお直参をからかいおるわい。のう、駕籠屋、駕籠屋、こうならば身共も意地ずくじゃ、刀にかけても一匹釣らねばならぬ。折角これまでお供してくれたが、もう乗物は要らぬぞ」
「へ?……」
「へではない。このあんばいならば二三日ここを動かぬかも知れぬゆえ、もう駕籠に用はないと申すのじゃ。ほら、酒手も一緒につかわすぞ。早う稼ぎに飛んで行け」
おどろいたのは街道稼ぎの裸人足共でした。呑気というか、酔狂というか、板についたその変人ぶりにあきれ返って立ち去ったのを、しかし退屈男は至っておちつき払いながら、本当に釣れるまでは二日かかろうと三日かかろうと、一歩もここを動くまいと言わぬばかりで、次第に怪しく冴えまさって来た双の目をキラキラ光らせながら、しきりに小ハヤのあとを追い廻しました。――その最中。パッカ、パッカと街道のうしろから近づいて来たのは、どうやら駿馬《しゅんめ》らしい蹄《ひづめ》の音です。釣に心を奪われて
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